洗骨(2018)
照屋年之(ガレッジセール・ゴリ)の監督・脚本作品。映画も洗骨の言葉自体の意味も知らなかった。言葉自体の怖さで見るのを躊躇ったけど知人がお勧めしてくれたので視聴。
照屋年之は日本大学芸術学部映画学科演劇コースを中退していて、芸人だけでなく、監督や脚本業、俳優業もこなしているらしい。今回の映画で初めて知った。
ですやん的あらすじ
新庄家の妻、恵美子が亡くなってから4年、夫の信綱はまだ恵美子のことが忘れられず、毎晩の様に酒を呷るように呑み、現実逃避する毎日。
そこに、『洗骨』の為に故郷に帰ってきた長男の剛と、長女の優子。優子は新しい命をお腹に妊って1人で帰ってきた。剛は、4年前と人が変わったように口煩くなっていた。
洗骨までの数日間、3人は同じ屋根の下で暮らす。3人は以前と変わってしまったが、果たして家族の幸せを取り戻すことはできるのだろうか。
感想
本当に良い作品だったので、出来るだけ多くのひとに実際に映画を見て欲しい。なのでネタバレは出来るだけ無しで書く。
まず映画のタイトルである、洗骨について。
今は殆ど見なくなった風習で、
沖縄の離島、奄美群島などには残っているとされる。
沖縄の粟国島(あぐにじま)では島の西側に位置する
「あの世」に風葬された死者は、
肉がなくなり、骨だけになった頃に、
縁深き者たちの手により骨をきれいに洗ってもらい、
ようやく「この世」と別れを告げることになる。
映画『洗骨』公式サイトより
風葬は、遺体の腐敗の早い低緯度の地域、日本だと沖縄県や鹿児島の奄美群島で行われていたそう。ただ、近代以降は火葬が殆どになり、一部の離島でしか執り行われていない。
この、映画『洗骨』では、人の住んでいない島の西側に位置する「あの世」で4年かけて風葬し、親族らで骨になった遺体を水や酒で洗う様子が描かれている。
そのシーンは、ホラーとかグロテスクに描かれている訳ではないが、骸骨が苦手な方は見ない方がいいと思う。
ただ、私もそういうのは苦手な部類だが、洗骨を通して家族が一つになるシーンは見て良かったなと思うので、是非頑張って見て欲しいな。
1. 映画の見どころ
勿論、骨を家族で洗うシーンがこの映画の見どころなのだが、その家族の個性がもう一つの見どころである。
妻亡くして放心状態になってしまった信綱。最初は、もう少ししっかりして欲しいなーと思っていたけど、洗骨シーンやその後の大波乱(これは是非映画で見て!)を通して徐々に愛着が湧いてきた。
優しすぎるが故に、知人に騙されて借金を作ってしまった、どうしようもない人だが、亡くなってから4年の歳月が経っても、妻を愛し続ける憎めない父。
長男の剛は、母が亡くなってから口煩くなってしまったが、きっと家族の為に嫌われ役をやっているのだと思う。多少お節介なところもあるが、長女の優子がいなくなった時に1番に見つけ出した頼れる兄。
長女の優子は勤務先の美容院の店長との子供が欲しかったので、安全日と嘘をついて子供を作って、実家に帰ってくるという少々破天荒な所もあるが、家族を気遣う優しい妹。
3人は時に衝突しながらも、家族の事を思い行動する姿に心を打たれたし、妻であり母である恵美子は3人を凄く愛し、愛されていたんだろうなと思った。
脇を固める登場人物も面白い。父の姉である(高安)信子の鋭いツッコミがすごく良い。演者は、トリックの大家・池田ハル役で知られる、大島 蓉子。私は実はトリックはあまり見た事がないので、これを機に見てみるつもり。
あと、優子の勤務先の店長の神山亮司役に、鈴木Q太郎が出演している。なんでQ太郎が?優子の話ではイケメン設定だったのに、と思うけど、全編通して見ると、Q太郎で良かったなと、むしろQ太郎にしか出来ない役だなと思った。この2人も凄く好きなので是非映画で見てほしい。
2. 洗骨シーンからの・・・
これは是非映画で見てほしい。葬式で最後にみた母と全く違った姿に家族は困惑し悲しい気持ちになるが、それでも骨を家族で洗う事で、家族が一つになっていく。
それも束の間、ある出来事が起こって、一同大パニック。叔母の信子が手動である事が始まるが、もうこのシーンがすごく面白い。ラストに、感動と笑いを持ってくるのはずるい。もう一度洗骨からのくだりが見たいくらい好き。
最後に
洗骨の儀式は言葉のニュアンスから、怖いイメージを持っていたが、映画での洗骨はもっと暖かいもので、洗骨の前日身嗜みを整える、長男の姿が凄く印象的だった。
火葬だと、突然の死でさえ1日2日で死者とお別れをしないといけないが、風葬だと、年月をじっくりかけて死と向き合う事ができるので、実際の洗骨は凄く過酷な風習ではあるが、遺族にとっては良い文化でもあると思った。
とても、自分や家族を見つめる事ができる良い映画なので、是非一度見てください。
以上!